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独立してから変化した"成功の定義"とは -スタジオ201アーキテクツ代表 岡野学さん -
更新日:2021年4月21日
リモートワーク、副業、スパイラルワーク…etc.時代と共に働き方は変化しています。場所に囚われない、プライベートを大切にする、など自分にあった働き方を選べる現代。しかし働き方の選択肢が増える一方で「どう働くのがいいか分からない」という声も多いのが事実です。
「働く先輩たちを知れば何かヒントを得られるかも」そんな想いから始まったインタビューシリーズ【多様化する新時代の働き方】。
第5回目はスタジオ201アーキテクツ一級建築士事務所代表の岡野学さんにキャリアや仕事をする上で大事にしていること、独立して感じたことなどを伺いました。
いわゆる普通のサラリーマンではない仕事がしたい
ーー建築の仕事に興味を持ったきっかけはなんですか?
中学生のときに観た『協奏曲』(TBS)というドラマです。主人公が建築の仕事をしていて「こういう仕事があるんだ」と思いました。当時、漠然と思っていたことですが、スーツを着てみんなと同じ時間に電車に乗らなくても良い仕事をしたいなと感じていたんですよね。僕がその時思っていた、いわゆる普通のサラリーマンではない主人公の仕事に興味を持ったんだと思います。
――一番最初のキャリアについて教えてください。
設計事務所に入社しました。大学では工学部建築学科を所属していたので、自然とその道に進みました。高校生の頃には建築の仕事をすると決めていて、大学受験は建築学科しか受けなかったですね。

岡野学さん
右も左も分からなかった入社当初 「怒られて、直しての繰り返しでした」
――建築士とはどんな仕事ですか?
お客さんの要望を聞きながら、空間のデザインを提案/設計し、設計通りに工事が完了するよう現場を監理する仕事ですね。お客さんとの打ち合わせをして、どのような空間にするかを話し合い、断面図や平面図、模型やパースを作成し、空間のイメージ共有します。共有したイメージを、施工者が施工できるように図面化し、工事が図面通りに行われているか工事完了まで現場を監理します。
――設計事務所に入社して、最初は苦労しましたか?
はい。最初の会社には4年勤めたんですけど、全てが初めてのことで最初の2年は何もできなかったですね。入社してすぐに、丸っと1つの案件を担当させてもらったんですけど、右も左もわからない状態で。ひたすら会社の過去の案件や資料を読み漁って、自分なりに図面を書いて、上司のチェックを受けていました。何もわからないので、当然怒られることも多くて。怒られて、直しての繰り返しでした。ですが、現場で実践させてもらえるのはありが
たい環境だったなと思います。
――挫けそうになったりはしましたか?
大変でしたけど、挫けそうにはならなかったですね。独立したいと考えていたので、会社での仕事をやれないと、独立してもやっていけないなと感じていたので踏ん張れました。
設計や飲食店のバイトをしながら一級建築士の勉強
――会社を辞めたあとはすぐに独立したんですか?
いいえ。4年勤めて辞めたのですが、すぐに独立したわけではなく、いってしまえばフリーターになりました。独立して一級建築士事務所を設立したかったのですが、働きながら一級建築士の資格が取得できなくて。働いているとなかなか勉強時間が取れないので、勉強を本格的にはじめようと、退職しました。
――一級建築士はどのぐらいで取得したんですか?
2年間かかりまた(笑)。在宅での設計補助の仕事や飲食店などのバイトをしながら勉強していましたね。一級建築士の資格を取得した後は、管理建築士の資格を取得するために別の会社で働いていました。建築事務所を設立するためには管理建築士の資格も必要なんですよね。
――管理建築士の資格取得には実務経験が必要がなんですね。
そうなんです。建築士として3年以上の実務経験が必要なので、以前からお手伝いさせていただいていた設計事務所のプロジェクトに参加する形で働いていました。その後に現在の建築事務所を設立しました。
独立してから変化した成功の定義
――独立してから変化したことはなんですか?
より慎重になりましたね。会社で働いているときは、思っていることを上司に提案し、上司のOKがでればその内容で設計するという形でしたけど、一人でやっていると全ての責任が自分にあるので、リスキーな選択ができなくなりました。今考えると、勤めていた時は、大分、会社に甘えていたなと感じます。
――心境の変化などはありましたか?
独立当初は、何歳までにこういう雑誌に取り上げられたいとか、公共施設のコンペで賞を取れたらいいなとか考えていましたけど、やっていくうちにそれだけがいわゆる成功じゃないなと思うようになりましたね。
――どうしてそう思うようになったんですか?
現在行なっている仕事のほとんどが人の紹介で頂いている案件なんですけど、1つ1つの仕事
を大切にこなすことで、紹介してもらえることが増えていって、別にコンペやメディアに取り上げられることがなくても、やっていけるなと実感したからですね。
――建築事務所を設立してから一番印象に残っている案件はなんですか?
大宮にある古着屋「BANKARA」です。海外の『ArchDaily』『domus』、国内の『architecturephoto』という建築メディアに取り上げてもらったり、海外のコンペに出して20選まで残ったり、自分の仕事に自信を持つきっかけとなった案件ですね。一生懸命、誠心誠意、案件に対して向き合えれば、いい結果が出るんだと、より仕事を頑張れるようになりました。

古着屋「BANKARA」

古着屋「BANKARA」断面図
――目に見える形で結果になると嬉しいですよね。
そうですね。先ほども話したように、独立当初はメディアに取り上げてもらいたい、人に見
てもらいたいという気持ちがあったんですけど、それがなくなりました。ちゃんと、物件とクライアントのことだけを考えられるようになったんですよね。
お客さんとの信頼関係が大事 打ち解けることで理解できる要望
――今の仕事で大事にしていることはなんですか?
お客さんとの信頼関係を築くことです。お客さんと何度も会って打ち解けていくうちに、関係性が深まっていって、その人の言いたいことや考えていることが分かってくるんです。信頼関係を築いてお客さんの要望をしっかり理解することで、お客さんに満足してもらえる空間が作れますよね。
――今後の目標を教えてください。
自分が設計した空間で時間を過ごした人が、それまでより少しだけ優しい気持ちになれるように。そんな空間を設計したいですね。その空間で気持ちの良い時間が過ごせたら、周りの人にも少しだけ優しくなれるんじゃないかと思うんですよね。
編集後記:「独立当初は人に見てもらいたいという気持ちがあったけれど、仕事をしていくうちに物件とクライアントのことだけを考えられるようになった」と語る岡野さん。仕事に限らず、私たちはつい目に見える成果ばかり求めてしまうような気がします。それも勿論、成功の1つの形ですが、そればかりを考えていると息苦しくなりますよね。1つの形にとらわれず成功の定義を変化させていく柔軟性が大切だなと感じました。
ライター:井上紗希